【読書レビュー】アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』(前編)

みなさん、こんにちは!進学塾ライトアップ、代表の西川です。

年間行事予定表を提出してくれた方は、ありがとうございます。長江・附属三原・栗原・日比崎・高西の予定は頂いております。1学期の中間テストは現在回収している学校は全て5/16からですので、テスト対策の日程もそのつもりで調整を進めていきます。

今年は中1・中2で自習に来てくれる子たちが多くて非常に嬉しいです。塾で勉強したことを活かして、学校の勉強もサクサクと進めましょう! 中3の生徒さんたちは、通塾日数が増えて大変だとは思いますが、早く慣れるようにしましょう。

先週の木曜の中3社会の授業は、目の前で居眠りをする生徒さんもいたり、両手を頭の後ろで組んでバカンス気分で授業を受けている生徒さんもいて、授業をしていてなかなか辛かったです。ストーリーを分かりやすくお話ししているつもりですが、私の語り口調が下手なんでしょうね・・・。精進します。申し訳ありません。

理科の授業も同じようにしてはならない、ということで血液型の遺伝の話で盛り上がった後、西川先生のわきの下にあった「副乳」と呼ばれている退化した乳首が取れちゃったという、衝撃のカミングアウトをしてみました。(調べてみたところ、もしかしたら「副乳」ではなくただの「イボ」だったのかもしれませんが、もう取れちゃっているのでどちらでもいいです笑)

さて、今回は久しぶりに「新書」の読書レビューをしたいと思います。

・・・といっても、2021年に最も売れた本ですから、既にご存知の方、読んだことがある生徒さんもいらっしゃるかもしれません。

全10章で構成されている本ですので、今回はその前半、1~5章の中で、私が個人的に気になったことをご紹介したいと思います。

アンデシュ・ハンセン著 久山葉子訳『スマホ脳』

https://www.shinchosha.co.jp/book/610882/

世界的ベストセラー上陸! スティーブ・ジョブズはわが子になぜiPadを触らせなかったのか? 最新研究が示す恐るべき真実。

平均で一日四時間、若者の二割は七時間も使うスマホ。だがスティーブ・ジョブズを筆頭に、IT企業のトップはわが子にデジタル・デバイスを与えないという。なぜか? 睡眠障害、うつ、記憶力や集中力、学力の低下、依存ーー最新研究が明らかにするのはスマホの便利さに溺れているうちにあなたの脳が確実に蝕まれていく現実だ。教育大国スウェーデンを震撼させ、社会現象となった世界的ベストセラーがついに日本上陸。

https://www.shinchosha.co.jp/book/610882/ より引用

私が子供の頃は「携帯から出る電磁波が脳に悪影響を与える・・・」などと言われていましたが、今はそんなことも言われなくなりました。

そして、大人であっても子供であっても、電車に乗ればほぼ全員がスマホをながめていますし、自転車に乗りながら、車を運転しながらスマホを使っているマナー違反・法律違反もたまに見かけることがあります。

もしかしたら、うちで勉強をしている生徒さんたちの中にも、しょっちゅうトイレに行っては戻って来ない子が数名いるので、トイレに行くフリをして、こっそりとスマホをのぞいているのかもしれません。(スマホは原則禁止としていますので、わざわざ問い詰めたりはしません。)それほどまでに、私たちの生活に欠かせないものになったスマホに関して、恐ろしい研究結果を私たちに教えてくれるのがこちらの本です。

結論から言いますと、この本はただスマホの悪いところだけを書いているのではなく、「どうして私たちにとって良くないのか」を、人間の進化の歴史をわかりやすく解説しながら、ゆっくりと説明をしてくれています。西川先生の退化した乳首には興味を持てなくても、この本で理科の生物に興味を持ってくれる生徒さんは、そこそこいるのではないかと思っています。

ということで、この本の中身を見ていきましょう!

まず、この本の冒頭に、衝撃的なページが現れます。それがこちらです。

アンデシュハンセン著 久山葉子訳『スマホ脳』(新潮新書)p.24, 25

ちょっと目がチカチカしますね笑 この見開きのページには1万個の点が書かれているそうです。

この1万個の点が何を意味するかというと、約20万年前に誕生した人類が、誕生から現在に至るまでに積み重ねてきた「世代」なのだそうです。生徒のみなさんがこのページの一番最後の点だとすると、みなさんのお父さん・お母さんがその1つ前、おじいちゃん・おばあちゃんが2つ前、・・・ということですね。

そして筆者は、この点を使いながら、「私たちの脳がなぜデジタル社会に対応していないのか」、その理由を分かりやすく教えてくれます。

考えてみてほしい。この中で、私やあなたにとって当たり前の車や電気、水道やテレビのある生活に生きたのは何世代だろうか。

・・・・・・・・(点8個分)

コンピューターや携帯電話、飛行機が存在する世界に生きたのは?

・・・(点3個分)

スマホ、フェイスブック、インターネットがあって当たり前の世界しか経験していないのは?

・(点1個分)

アンデシュハンセン著 久山葉子訳『スマホ脳』(新潮新書)p.26

私たちにとって当たり前のものも、1万世代のある人類の歴史の中で考えると、残りの9990世代は経験をしていないものな訳ですね。もっと言うと、人類のおよそ9500世代は狩猟生活をしていました。だから、私たちの体は、狩猟生活で生き残るための体になっていて、現代の生活に適応していないというんですね。

私はスマホの話だけでなく、その辺りがとても面白く感じました。いくつか例を挙げてみたいと思います。

・お腹が空いていなくても「全部」食べてしまいたい

私たちの脳は、目の前にあるものを全部食べたいと思うように出来ているんだそうです。狩猟生活をしていた頃なら、お腹が空いていないから、食べ物を明日まで取っておこうと思うことは良くないことでした。その食べ物が、夜の間に別の生き物に食べられてしまえば、結果として残しておいたものは食べられず、生き残る可能性が減ってしまいます。だから、目の前にあるものはとりあえず口に入れとこう。

だから、狩猟生活が終わった今でも、私たちはついつい食べ過ぎてしまうんだそうです。

・注意力散漫

授業中も先生の話を聞かずに、キョロキョロしてしまう生徒さんはいます。今ならそんな生徒さんたちの一部は、ADHD(注意欠如・多動性障害)という軽度発達障害に分類されてしまうでしょう。しかし、そうやって何かをしている時でも、周囲に意識を向けられる能力というのは、いつどこから野生動物が襲ってくるか分からない狩猟時代には、なくてはならない能力だったでしょう。

弱肉強食の世界を生き残るための優秀な能力が、現代の社会では「勉強が苦手」になる原因になってしまっているというのも皮肉な話です。

・ストレスを感じるとドキドキする

ストレスを感じたり、何かにびっくりしたりしたとき、私たちの心臓はドキドキと激しく拍動します。それも、危険が迫ってきて逃げ出さなければならないとき体を素早く動かせるように、心拍数を上げて体全身に血液が行き届くようにしているということです。そのように私たちの脳や体は、長い長い狩猟生活の中で作られてきました。緊張すると「貧乏ゆすり」をしてしまうのも、体が素早く動けるようにと脳が信号を送っているから、だそうです。

そして、みんなの前で話すときにドキドキするのも、似たような現象であるとも書かれていました。私たち人間は、社会からはじき出されると、1人では生きて行けない動物です。肉食動物のように足が速い訳でも、サルのように木登りが上手い訳でもありません。だから、「集団から追い出されるかもしれない」「誰かに嫌われるかもしれない」と思うと、それが「死」を意識してしまうような大きなストレスになるんだそうです。スピーチや発表などの際に緊張してしまうのもそれが原因なんだとか。

そして、そんなストレス状態が続くと、命を守るために「その場から動くな」「危険を回避せよ」という信号が脳から出されます。その場から動かなくさせるために、その人の気分を落ち込ませるように脳が指令を出すこともあります。その状態が「うつ病」や「引きこもり」なんだそうです。ということは、「うつ病」や「引きこもり」というのは、その人の命を守るための大切な行動ということでしょうか。

精神科医として働く中で気づいたのだが、患者が、自分の感情が果たす役割を理解するのはとても重要だ。不安が私たちを危険から救ってきてくれたことや、うつが感染症や争いから身を守るための術だったと知れば、患者たちもこう考えることができる。

「うつになったのは自分のせいじゃない。ただ脳が、進化したとおりに働いているだけ。その世界は、今いる世界とはまったく違ったのだから」

アンデシュハンセン著 久山葉子訳『スマホ脳』(新潮新書)p.64

うつ病だと診断されている人が、なりたくてうつ病になった訳ではないことがこの文章からよく分かりますし、うつ病になった自分を責めたり、「情けない」「メンタル弱すぎ」とその人を責めてしまうのではなく、その人の脳が昔の防衛機能を持ったままで、それがその人とは無関係に働いてしまっているだけなんだと思うと、心の問題を抱えている人たちへの見かたや接し方が変わってくるのではないかと思います。

スマホがなぜ悪いのか

ここまで第一章・第二章の内容を主にまとめてみましたが、ここからは第三章「スマホは私たちの最新のドラッグである」を見ていきます。

朝起きてまずやるのは、スマホに手を伸ばすこと。1日の最後にやるのはスマホをベッド脇のテーブルに置くこと。私たちは1日に2600回以上スマホを触り、平均して10分に一度スマホを手に取っている。起きている間ずっと。いや、起きている時だけでは足りないようで、3人に1人が(18~24歳では半数が)夜中にも少なくとも1回はスマホをチェックするという。

スマホがないと、その人の世界は崩壊する。私たちの4割は、1日中スマホがないよりは声が出なくなる方がましだと思っている(本当にそうなのだ)。どこにいても――街中やカフェ、レストラン、バスの中、夕食のテーブル、おまけにジムにいても、見回すと誰もが自分のスマホをじっと見つめている。それがいいか悪いかは別として、依存してしまっているのだ。

アンデシュハンセン著 久山葉子訳『スマホ脳』(新潮新書)p.69-70

これほどまでに、私たちがスマホに熱中する原因は、脳の中で分泌される「ドーパミン」という化学物質が関係しているそうです。

ドーパミンと言えば、以前にも記事を書いたことがあります。

こちらの記事では、私たちが何かに集中する方法として、漫画に描かれたメンタルトレーニングの方法を紹介しながら、「チロトロピン」「コルチコトロピン」「ドーパミン」が大切というお話をさせてもらいました。

そのドーパミンは、何か新しいものを実行したり、「〇〇かもしれない」と期待をしている時にも分泌されるのだそうです。(マンガの知識だと、何かに期待するときに分泌されるのは「チロトロピン」の働きだったような気がしていましたが、どうなんでしょう…)

スマホの画面をどんどん新しい画面へと切り替える、自分がSNSに投稿したものに「いいね」がついているかもしれないと期待する、誰かが何かをつぶやているかもしれないと期待する、メールやLINEの通知が来ると気になって仕方がない・・・などの行動に、ドーパミンが関係していて、依存をしてしまうのだそうです。

それもこれも、狩猟時代には、周りの環境から新しい情報を手に入れれば入れるほど、生き残る可能性が高まっていたから。だから、私たちの脳は、新しい情報を手に入れると気持ちよくなるように出来ているということなんですね。つまり、私たちはスマホの画面を見続けるのを止められないし、こまめにチェックしなければ落ち着かない。

そして、IT企業のトップたちは、自分たちが生み出してしまったものの依存性の高さに驚き、自分や子どもがスマホをいじるのを厳しく制限していたと言います。

そして、第4章「集中力こそ現代社会の貴重品」の章では、スマホを見ることで集中力が低下することを指摘しています。

ドーパミンが原因で、私たちはこまめにスマホをチェックしなければ、気になって他のことに集中出来ません。だから私たちは、テレビを観ながら、勉強をしながら、誰かと話をしながら、トイレに入ったついでに、ついつい「ながらスマホ」をしてしまいます。

しかし、何かを同時に行うと、1つの作業に集中することが出来ず、やったことに対する「記憶」があいまいになります。

自分なら複数のことを同時にこなせる、と思っていても、いくつかのことを同時にやっていまうと、1つ1つの作業を集中してやることよりも、作業効率の面でも記憶の面でも良くないという実験結果があるそうです。昨年、自習中にスマホでアニメを流しながら勉強をしていた高校生の生徒さんがいましたが、それは非常によろしくない行為、脳が最適な状態で働くのを邪魔する行為だったわけですね。(当たり前ですが・・・)

そして恐ろしいことに、スマホというものは実際にいじっていなくても、ただポケットの中に入れておくだけで、私たちの集中力を奪ってしまうのだそうです。

スマホには、人間の注意を引きつけるものすごい威力がある。その威力は、ポケットにしまうくらいでは抑えられないようなのだ。

大学生500人の記憶力と集中力を調査すると、スマホを教室の外に置いた学生の方が、サイレントモードにしてポケットにしまった学生よりもよい結果が出た。学生自身はスマホの存在に影響を受けているとは思ってもいないのに、結果が事実を物語っている。ポケットに入っているだけで集中力が阻害されるのだ。同じ現象が他の複数の実験にも見られた。そのひとつに、800人にコンピューター上で集中力を要する問題をやらせるというものがあった。結果、スマホを別室に置いてきた被験者は、サイレントモードにしたスマホをポケットに入れていた被験者よりも成績がよかった。

(中略)

ポケットの中のスマホが持つデジタルな魔力を、脳は無意識のレベルで感知し、「スマホを無視すること」に知能の処理能力を使ってしまうようだ。その結果、本来の集中力を発揮できなくなる。

アンデシュハンセン著 久山葉子訳『スマホ脳』(新潮新書)p.93-94

ということで、これを読んだ皆さんは、勉強をするときはスマホをカバンの中にしまったり、電源を切ったり、必要がないのなら塾に持ってくるのを辞めたり(そもそも利用は許可していませんので)、といった対策をとるべきだと思います。

それをするだけで授業にもっと集中出来て、1つでも2つでも多くのことが覚えられるなら、これほど楽で嬉しいことはありませんよね?

しかも、この「スマホによって集中力が低下してしまう問題」は、慣れれば良いというものではありません。むしろその逆で、この生活を続けていけば行くほど、どんどん集中力が持続する時間が低下していってしまうのだそうです。だから、この習慣を変えるなら、「今すぐ」です。

また、「どうせスマホで調べればすぐに分かるんだからいいや」と考えてしまうと、私たちの脳は楽をしようとして、記憶をするという作業をしなくなるのだそうです。もちろん、日常生活ならそれでも大きな問題はないのかもしれません。

ですが、学生の皆さんはもちろん、定期テストや受験の会場で、スマホで調べながらテスト受けることは出来ませんから、それなのに記憶力が低下するというのは大きな問題です。

さらに、スマホの中の世界にある魅力的なものを知ってしまうと、現実世界に興味が湧かなくなる、無関心になってしまうという問題もあるのだそうです。この実験結果も非常に興味深かったです。

ある研究で約30名に、知らない人と10分間自由に話してもらった。テーブルをはさんで座り、一部の人はスマホをテーブルに置き、それ以外の人は置かなかった。その後、被験者たちに会話がどのくらい楽しかったかを尋ねてみると、視界にスマホがあった人たちはあまり楽しくなかった上に、相手を信用しづらく共感しにくいとも感じていた。言っておくが、スマホはただテーブルの上にあっただけで、手に取ることは許されなかった。

これもさほど驚くことではない。当然のことながら、ドーパミンが何に興味を向けるべきか指示していたのだ。毎日何千という小さなドーパミン報酬を与えてくれる物体が目の前にあれば、脳は当然そっちに気を引かれる。スマホを手に取りたいという衝動に抵抗するために、限りある集中力が使われる。先に書いたとおり、無視するというのは能動的な行為なのだ。その結果、あまり会話についていけなくなる。

アンデシュハンセン著 久山葉子訳『スマホ脳』(新潮新書)p.106-107

恐ろしい実験結果だと思いませんか? 楽しい場面でも、ただスマホをテーブルの上に置いておくだけで楽しくなくなるなんて・・・。

まだまだ止まりません。第5章「スクリーンがメンタルヘルスや睡眠に与える影響」の章では、スマホを見る時間が増えることで私たちが睡眠や運動などの心をリフレッシュをするための時間が奪われてしまうこと、スマホの観すぎで学校の課題をやる時間が奪われて成績が下がり自己肯定感が落ちてしまうこと、それらがうつ病の原因の1つになってしまっていることを指摘しています。

そして、これはよく言われていますが、スマホが発する「ブルーライト」。このスマホから出る青い光が目に入ると、人間の脳は昼間だと勘違いをして、眠らずに起きていようとするのだそうです。その結果、夜にスマホを見てしまうと寝不足になって体調を崩す、起きている間にお腹が空いて夜食に手を出し太ってしまう、ということにもつながっていくのだそうです。

まとめ

ということで、本の内容としてはまだ半分ですが、いかがでしょうか?

ここまでの内容をまとめますと、スマホがあると集中力がなくなり、記憶力が低下し、現実世界に興味がなくなり、寝不足になり、うつ病の原因の1つにもなるけれど、それでもスマホは、1日に数百回も脳に快感を与えてくれるものであり、ドラッグ(麻薬)のように、簡単には手放せないということです。

その原因は、私たち人類が、20万年という長い歴史の中で、狩猟生活で生き残るために生み出した本能のようなものにあるということ。だからこそ、簡単に克服できるものではないということです。

この話を、生徒さんたちの話に置き換えると、きちんと各ご家庭でスマホ利用に関するルールを作ってもらうことが、そのお子さんが勉強を頑張る上でも、現実世界の人間関係を築く上でも、心穏やかに過ごして睡眠時間を確保する上でも、大切なのだろうと思います。

ということで、この本自体は、中学生には少し漢字の部分が読みづらいかもしれませんが、とてもおススメです。この本を読んで、生徒さん自身が、自分でスマホ利用のルールを考えるのも、とても良いことだと思います。近いうちにまた、後半の内容のご紹介もしていこうと思いますのでご期待ください!

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