【読書レビュー】アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』(後編・その①)

みなさん、こんにちは!進学塾ライトアップ、代表の西川です。

色々と書きたい記事があるのですが、なかなか時間が取れずにたまっていってしまっているので、少しずつ消化していこうと思います。(アンケート結果、世羅に行った話、高校説明会レポートも書かねば・・・)

さて、遅くなりましたが、前回紹介した2021年ベストセラーの読書レビュー後編です。これ、内容を考えると、子どもたちの夏休み前にご紹介をしておいた方が良かったかもしれませんね・・・コロナの影響で自宅隔離期間が長い生徒さんなんかは、尚更、注意をしなければならないことだと思います。

紹介する本はこちら。

前回の記事はこちらでした。

前回の記事では、本の1~5章を取り上げたので、今回は後半の6~10章を取り上げたいと思います・・・が、かなり内容が長くなってしまったので、6,7章のさらなる問題提起と、8章以降の解決策の2つにさらに分けようと思います。

前回までの話をまとめますと、「私たちの脳はデジタル社会に対応しているとは言えない。だから、スマホを使い続けると恐ろしいことになる。」ということでした。この本では、筆者がそう主張する根拠を実際の研究結果などを交えて分かりやすく説明してくれていました。

人類の長い歴史から考えると、今の生活を手に入れたのは、わずかな期間です。だから、私たち人間には長い間生き延びてきた狩猟生活をしていたころの、「本能」とも呼べる機能が抜けきっていないのだそうです。だから、目の前にあるものは欲しくなるし、新しい情報は知りたくてしょうがなくなるし、周りのことに気が散りやすいし、ストレスを感じるとドキドキして、時にはうつ状態になります。

そして、そんな私たちの本能と、「スマホ」の相性はあまり良くないのだそうです。具体的には、スマホがあると集中力がなくなり、記憶力が低下し、現実世界に興味がなくなり、寝不足になり、うつ病の原因の1つにもなるけれど、それでもスマホは、1日に数百回も脳に快感を与えてくれるものであり、ドラッグ(麻薬)のように、簡単には手放せない・・・というところまでご紹介をしていました。

もうこの時点で、かなり恐ろしいのですが、後半の内容も衝撃的です。

では、ご紹介をしていきたいと思います。

SNSによって自信を失い、踊らされる若者たち

第6章『SNS――現代最強の「インフルエンサー」』の章では、特に若い人たちにとっては、スマホと切っても切り離せないSNSに関しての考察です。念のため確認をしておくと、SNSというのはソーシャルネットワーキングサービス(Social Networking Service)の略で、具体的なアプリで言えばLine, Twitter, Facebook, TikTok, Instagramなどのことを言います。自分の目の前にいない人たちとも、インターネットを利用してすぐに交流が出来るシステムのことですね。

ちなみに、私はTikTokというアプリは使ったことがないのですが、「生徒たちが使っているから試してみよう!」とアプリを使用してみた塾の先生がおられました。その先生の体験談によると・・・、「TikTokはヤバい・・・。面白いから何時間でも平気で観ていられる。3~4時間なんてあっという間で、時間が溶ける。だから、あれをやってる子は勉強なんて出来ない。」ということでした。私が学生のころに存在していなくて本当に良かった・・・。そして今の時代、TikTokが原因で学校生活が破綻している生徒さんなんて、たくさんいるんじゃないかと不安になりました。

このSNSが発達したことによって、私たちにどういう影響があるのかを、実際の実験結果を紹介しながら、分かりやすく解説をしてくれています。

まずは、SNS関係なく、私たちの脳の仕組みについて。

 自分のことを話しているとき、脳の中では何が起きているのだろうか。ある研究グループがそれに答えるべく、被験者を集め、自分のことを話しているときの脳の状態を調べた。

(中略)

 自分のことを話しているときのほうが、他人の話をしているときに比べて、被験者の脳の複数個所で活動が活発になっていた。

(中略)

 つまり人間は先天的に、自分のことを話すと報酬をもらえるようになっている。

アンデシュハンセン著 久山葉子訳『スマホ脳』(新潮新書)p.135

他の人に自分のことを話すと、脳の活動が活発になり、話した本人が気持ちよく感じるように出来ているということです。私がこうやってブログを書いている理由の一つも、そういうことなのかもしれませんね。笑

そして、そのためにはSNSが非常に重要な役割を果たしています。

 人間の進化の期間のほとんど、聴衆は1人~数人程度だった。現在はSNSのおかげで、思いもよらない可能性を与えられた。数百人から数千人に自分のことを語れるのだ。

(中略)

自分のことを話して賞賛され、報酬中枢が活性化するほど、SNSでも積極的になるのだ。

アンデシュハンセン著 久山葉子訳『スマホ脳』(新潮新書)p.136

現実の世界では、他人の話を聞かずに自分のことばかり話していると、嫌われることもあります。友達の話を聞かずに一方的に自分語りをしていると、「自己チュー」だと思われてしまうかもしれません。

ですが、SNSだと、何人がその話に耳を傾けてくれるかはともかくとして、延々と自分語りをすることも可能です。だから、SNSを使って発信したがる人も多くいる訳ですね。そういった意味では、SNSは自己肯定感を上げてくれるのかもしれません。

しかし、本の中ではそれだけではない影響についても書かれています。

 ボタンひとつで20億人のユーザーと繋がるSNSは、人と連絡を取り合うのに非常に便利な道具だ。でも私たちは本当に、フェイスブックなどのSNSによって社交的になったのだろうか。そういうわけでもないらしい。2000人近くのアメリカ人を調査したところ、SNSを熱心に利用している人たちのほうが孤独を感じていることがわかった。

(中略)

「私たちはSNSによって、自分は社交的だ、意義深い社交をしていると思いがちだ。しかしそれは現実の社交の代わりにはならない」研究者たちはそう結論づけている。

アンデシュハンセン著 久山葉子訳『スマホ脳』(新潮新書)p.136-137

SNSを熱心に利用している人の方が孤独を感じるという研究結果です。

SNSで自分語りをすると、自己肯定感が上がる可能性があると書かれていたばかりなのですが、これはいったいどういう理由なのでしょう??

 私が子供の頃は、自分を比べる相手はクラスメートくらいだった。憧れの存在といえば、手の届かない怪しげなロックスターくらいで。今の子供や若者は、クラスメートがアップする写真に連続砲撃を受けるだけではない。インスタグラマーが完璧に修正してアップした画像も見せられる。そのせいで、「よい人生とはこうあるべきだ」という基準が手の届かない位置に設定されてしまい、その結果、自分は最下層にいると感じる。

(中略)

 SNSを通じて常に周りと比較することが、自信を無くさせているのではないか。まさにそうなのだ。フェイスブックとツイッターの3分の2が「自分なんかダメだ」と感じている。何をやってもダメだ――だって、自分より賢い人や成功している人がいるという情報を常に差し出されるのだから。特に、見かけは。

アンデシュハンセン著 久山葉子訳『スマホ脳』(新潮新書)p.143-144

いくら自分がかっこいい、イケてると思っても、SNS上にはスタイルも見た目も完璧な人が、オシャレな場所でバリバリの加工をした写真をたくさんアップしています。自分は勉強が出来ると思っても、SNS上には自分よりもはるかに勉強が出来る同級生たちや、何か国語もペラペラな同級生たちがたくさんいます。大人になれば、自分よりも派手にお金を使う生活をしているのに、自分よりもお金をもっていそうな人はたくさん見つけられます。

そうした人と自分を比べてしまうことで、今の若者たち(特に女子)は「自分なんかダメだ」「自分なんてちっとも魅力的じゃない」「自分の容姿にコンプレックスを感じる」と思ってしまう傾向が強いのだそうです。自分に自信を持てないと、思い切って行動してみようと考えたり、積極的にコミュニケーションを取ろうと思ったりできなくなり、人と会う時間が減ってしまいます。内向的で、自分自身の殻に閉じこもり、SNSを見る時間が増えて、さらに自分とSNS上の人を比べて自信を失って・・・という悪循環に陥ります。

そして、実際に人と会って面と向かってコミュニケーションをとる時間が減ってしまうと、「共感力」が養われず、自分のことばかりが気になり、他人の気持ちを考えずに自分勝手な行動をとりやすくなるのだそうです。

また、SNSの機能の一つ一つが、利用している人を夢中にさせるための様々な工夫がなされているため、SNSを眺めるだけで知らず知らずのうちにある商品を買うように誘導されていることもあるそうです。アプリ自体が無料だからラッキーと思っていると、実はそのアプリを利用することで、本来は必要なかったものを無自覚のうちに買わされてしまっていることもあるというのは、恐ろしいですね。

さらに、SNSを利用していると、フェイクニュース(嘘のニュース)が拡散されやすくなるのだそうです。

SNS上で拡散された10万件以上のニュースを調査したところ、フェイクニュースのほうが多く拡散されていただけでなく、拡散速度も速いことがわかった。一方で正確なニュースは、フェイクニュースと同程度に拡散されるまで6倍の時間がかかっていた。その理由は、フェイクニュースのほうがセンセーショナルだからだろう。真実に忠実である必要はないのだ。読まれるからアルゴリズムに優先され、タイムラインの一番上に出てくる。

アンデシュハンセン著 久山葉子訳『スマホ脳』(新潮新書)p.165

人は良いニュースよりも悪いニュースの方に注目しやすいため、大げさに作った刺激的なゴシップやデマというものは、あっという間にSNSに拡散されるのだそうです。そもそもSNSというものは、そのニュースが本当なのかか嘘なのかかではなく、みんなが見たいと思うかどうかで、注目のニュースを選んで、トップ画面に表示してしまうため、過激で嘘のニュースがどんどん広がってしまうということですね。

ということで、第6章に書かれていることだけでまとめると、「私たちが、現実世界の人とのつながりを軽視して、SNSを利用しすぎてしまうと、自信を失い、他人への共感力を失い、自分が欲しくなかったものを欲しいと勘違いさせられて買う羽目になってしまい、嘘の刺激的なニュースに踊らされるようになってしまう」ということです。

そうならないために、筆者は、SNSを利用する時間を1日30分までに減らす、「デジタル・デトックス」を提案しています。そうすることで、人生に満足感を感じるようになり、ストレスが減り、周りの人たちと「顔を合わせる時間」が増える(=共感力が上がる)というのですから、本当に大切なことですね。

スマホを使うと子供はバカになる?

第7章のタイトルは「バカになっていく子供たち」という、これまた衝撃的な見出しでした。この章では、幼いころからスマホを与えると、子どもの発育にどのような影響があるのかが書かれています。

スマホを使うことで、集中力・記憶力が低下し、現実世界がつまらなくなり、寝不足になり、うつ病の原因にもなるというのは既にこれまでの章で書かれていましたが、それ以外の影響もあるそうです。結論から言いますと、子供たちは、スマホを使い続けることで、これらのデメリットに加えてさらに、我慢をする能力(自制心)が育たず、その結果として、時間をかけてじっくりやる作業が苦手になり、文字を読む能力が低下するのだそうです。

将来もっと大きな「ごほうび」をもらうために、すぐにもらえる「ごほうび」を我慢するのは非常に重要な能力だ。実際、それができるかできないかでその子の人生がどうなるかだいたいわかるというう。マシュマロをすぐに1個貰うより2個貰うために15分待てる4歳児は基本的に、数十年後に学歴が高くいい仕事に就いている。

 つまり、自制心は人生の早い段階で現れ、将来性にも関わってくる――と解釈できる。しかし報酬を先延ばしにできる力は産まれたときからあるわけではなく、生活環境の影響を受けるし訓練で伸ばすこともできる。

アンデシュハンセン著 久山葉子訳『スマホ脳』(新潮新書)p.180

この自制心の話は、以前に別の記事でも扱っています。

成績を上げるという時間がかかる作業のために、目の前にあるスマホでゲームをするのを我慢するというのには「自制心」が必要です。しかし、スマホを使い続けているとその能力が低下していくのだそうです。

知りたいのは、報酬を先延ばしにする能力がスマホを使い始めることで変化するのかどうかだった。そして、まさにその通りになった。3カ月スマホを使用したあと、一連のテストを行い、報酬を先延ばしにするのが前より下手になっているのがわかった。

 報酬を先延ばしにできなければ、上達に時間がかかるようなことを学べなくなる。クラシック系の楽器を習う生徒の数が著しく減ったのもひとつの兆候だ。ある音楽教師にその理由を尋ねたところ、こんな答えが返ってきた。「今の子供は即座に手に入るごほうびに慣れているから、すぐに上達できないとやめてしまうんです」

アンデシュハンセン著 久山葉子訳『スマホ脳』(新潮新書)p.181

スマホを眺めて、ボタンをクリックすれば、新しい情報という「ごほうび」がすぐに手に入ります。脳がその快感に慣れてしまうと、すぐにはごほうびが得られないような、時間がかかる作業をやりたがらなくなるのだそうです。

しかも、この「自制心」という機能は25~30歳にならないと完全には発達しないらしいので、スマホを与えられると大人よりも子供の方が、その影響はより大きくなりそうです。そのため筆者は、アルコールと同じように未成年のスマホもきちんと規制した方が良いとまで述べています。

そりゃあ、「自制心」が充分に育っていない子どもに、「自制心」を失わせる道具を与えてしまうと、勉強もしたくなくなる訳ですよね。

以前に書かせてもらった記事で、これからの時代にICTは必ず必要というお話も書かせてもらいましたが、いくらICTが大切とは言え、子供が小さな頃から、ただ与えて好きにやらせるだけではダメなんじゃないかと不安になります。

また、海外のペーパーレスを実施し、ノートの代わりにタブレットを利用させた小学校では、鉛筆を使って紙に文字を書くという作業をやらせなかった結果、手指から脳への刺激が減って、子供の発育に影響が出たという話も、本書とは別ですが、どこかで聞いたことがあります。

また、小さなお子さんがぐずり出したときに、スマホを与えて落ち着かせている親御さんというのを、色々な場面で見かける気がします。これは、お手軽な解決法である一方で、幼いころからスマホへの依存性を高めてしまうという点で考えると、これがベストな方法ではないのかもしれません。

まとめ

ということで、今回はたった2章分の紹介でしたが、それでもこれだけの分量になってしまいました。

8章以降には、スマホにまつわる、ここまでに登場した問題点の解決策が提示されています。次回もご期待ください。

また、この本に書かれているお話が非常に興味深かったので、私は電子書籍で「2冊目」も購入してしまいました。

今回ご紹介している『スマホ脳』の続編ということで、より深く色々なことが書かれているそうです。後編その②のレビューをまとめながら、こちらも少しずつ読み進めていきたいと思っています!

私が読書レビューをまとめたいから、この本の貸出はちょっと待ってね、とお願いをしている生徒さんもいるので、続きも早めに書きたいと思っています。ご期待ください!

【読書レビュー】アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』(後編・その①)” に対して3件のコメントがあります。

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