【読書レビュー】深井龍之介『歴史思考』

みなさん、こんにちは!進学塾ライトアップ、代表の西川です。

4/6日はお休みです。4/7月は補習日のため、14時から教室を開けます。

以前、こちらでとあるネットラジオの番組を紹介させてもらいました。

【社会】COTEN RADIOで歴史好きになろう!

私は、この紹介をしてからもコテンラジオやゆるーく聞き続けています。今ちょうどNHKの朝ドラで「あんぱん」が放送されていますが、そのネタバレを食らってもよければ、ぜひアンパンマンの作者「やなせたかし」さんの回を聞いてみてください!

そして、今の時点で私が覚えている内容だけですが、前回のブログを書いた後に聞いたコテンラジオのテーマについて、少しだけどんな内容だったのかを振り返ってみます。多少は記憶違いがあるかもしれませんので、その点はご了承ください。

『エリザベス女王』の話では、自分の父親に振り回されながら、一時は屋敷に幽閉されていたエリザベス1世が、どのようにしてイギリスを大国に押し上げたのか、という話がされています。生涯独身を貫き、「私は国家と結婚している」と発表した裏側には、明確な政治的な意図があったのだとよくわかりました。

また、「イギリス国教会」というキリスト教の宗派の紹介もされているのですが、この周辺の単語は高校時代に世界史の勉強で頑張って覚えた記憶があります。ですがこの宗派、・・・エリザベス1世の父親であるヘンリ8世が、「どうしても不倫をしたいけれど、カトリックはそれを許してくれない。だったら自分で作っちゃえ!」という目的で作られた宗教だということが分かり、そんなものを高校時代に苦労して覚えていたのか・・・とやるせなくなりましたね。苦笑

『織田信長』『豊臣秀吉&徳川家康』の話では、中世から江戸に至るまでの武家社会の歴史が一気に復習出来るし、秀吉の水攻めすごいなと感心しました。1590年に秀吉が天下統一を果たす訳ですが、この出来事によって歴史上で初めて日本が1つになったんだと感じられました。

また、徳川家康が関ヶ原の戦いで勝ち、大坂の陣で豊臣氏を滅ぼすことによって、江戸幕府を確立していく訳ですが、家康は最初から豊臣家を裏切るつもりだった訳ではないということも分かりましたし、朝鮮侵略という、秀吉が晩年にやらかした失政だと言われているものが、実際この時代に生きていれば避けられない挙動だったのではないかという話は、とても興味深く聞かせてもらいました。

「当時の人にとっての常識は?」「当時の人はどんな価値観で生きていたのか?」こういう話は、歴史上の人物にぐっと親近感がわくので、とても好きです。

そういう意味で言うと、『教育の歴史』の話も面白かったです。「昔の人は、今ほど子供のことを愛していなかった」というんですよ。最初に聞いたときは、「は?そんな訳ないでしょ?子供はかわいいだろ!」と思いましたが、話を聞いていくうちに、確かにそうかもしれないという説得力がありました。昔は今よりも子供の致死率が高くて、多産多死社会でした。いちいち子供が亡くなる度に絶望していたら、心が持たなかったと言われたら、そうかもしれないと思えます。子供が泣き止まないから、紐でつるして口に布を突っ込んでいた家庭も記録に残っているようですが、今の価値観だと虐待と言われてしまいますし、そんなことをわが子にしたくありませんね。

また、昔は身分の壁がありましたし、学校がありませんでした。農民の家に生まれた子にとっては、将来なんて農民以外に選択肢がないので、自然と親の仕事を手伝って技能を身につけていって、一生を終える。だから、そもそも学校教育は必要なかったんですよね。

そしてそんな時代に、教養を身につける必要があるのは、国を治める立場である貴族だけだったようです。教育が一般民衆にも広がっていったのは、その国に住む人たち全員が国の政治にかかわるようになった時代、つまりフランス革命によって一般人が政治に参加する民主主義が広がってからなのだそうです。

もちろん、みんなが政治に関われることは素晴らしいことなんですが、国民全員が政治にかかわるようになった結果として、今までは貴族たちだけのものだった「あるもの」にも、国民全員が関わらなければならなくなります。それが「戦争」です。このことが、第一次世界大戦以降の戦いが「総力戦」となったことにも、深く関わっているようです。逆に言えば、政治が王様や貴族だけのものだったら、多くの犠牲者は出なかったのかもしれないと考えると、何とも言えない気持ちになりますね。

『第一次世界大戦』の回で、どの国も戦争なんてしたくなかったのに、ぞれぞれの思惑や行動が色々と食い違ってしまった結果、ボタンの掛け違いが連鎖していって、だれも予想しなかった世界大戦が起こったのだということが分かりました。そして、「技術の進歩」という言葉だけを聞けば、とてもありがたいもののように思えますが、それが原因でとんでもない数の犠牲者・戦死者を出すことになってしまったということが分かりました。戦車・潜水艦・機関銃・毒ガスといった新しい武器による被害の拡大ももちろんあります。それ以外にも、鉄道によって武器や人を戦地に大量に送れるようになったことや、通信技術の発達によって、戦地の状況がすぐに把握できて、即断即決が出来るようになったことなども、被害が大きくなっていった原因のようです。

「当時の人だって、戦争なんてやりたくなかった」・・・こう考えられると、少し怖いことも想像出来てしまいます。当然、現代の私たちの中にも戦争をしたいと思っている人はほぼいないはずです。少なくとも、戦争で死にたい、誰かに殺してもらいたいと思っている人は限りなく0のはずです。でも昔はそんな状態でも戦争が起きました。つまり裏を返せば今の時代だって、普通に戦争が起きる可能性があるということなんです。日本人が今戦争に巻き込まれていないのは、運が良いだけなのかもしれないし、一時的なことなのかもしれません。

『日露戦争』の回では、その前の日清戦争のころから一通り復習をしてくれていて、すごく勉強になるし、当時世界最強だと言われていたロシアのバルチック艦隊を撃破したというのが、どういう経緯で起きたのかもわかります。日本側が何か1つでも違った選択をしていたら、日本がロシアに負けていたというのもよく分かります。

日露戦争で活躍した乃木希典さん・・・お名前だけでどういった方なのかをきちんと存じ上げていなかったのですが、息子2人を含む部下の多くが戦死した戦いに心を痛め、明治天皇がお亡くなりになると後追いで自害されたということで、壮絶な人生だったということが分かりました。

ということで、非常に多くの学びをもらっているコテンラジオで、話し手として毎回興味深いテーマをわかりやすく解説してくださっている深井龍之介さんが、ご著書を2冊を出されています。そりゃ買わせていただきますよ!

深井龍之介『歴史思考』

キリスト、ガンディ、ブッダ、サリバン先生、孔子、チンギスハン……歴史上の偉人たちも実は現代人と同じように苦悩していた。歴史を知り、長い時間の流れの中で物事を捉えられるようになれば、目の前の悩みは一瞬で消えていきます。超人気ポッドキャスト番組「歴史を面白く学ぶコテンラジオ」書籍化!

https://www.diamond.co.jp/book/9784478112274.html より引用

目次はこんな感じです。

プロローグ◆僕たちの「当たり前」を疑え◆チンギス・カン

1◆スーパースターも凡人だった◆イエス・キリスト、孔子

2◆100%完璧な人間なんていない◆マハトマ・ガンディ

3◆人生のクライマックスは終盤に現れる◆カーネル・サンダース

4◆奇跡を起こすのは誰だ?◆アン・サリヴァン

5◆千年後のことなんて誰も分からない◆武則天

6◆僕らの「当たり前」は非常識◆性、お金、命

7◆悩みの答えは古典にある◆アリストテレス、ゴータマ・シッダールタ

エピローグ◆今こそ教養が必要なワケ

おわりに

https://www.diamond.co.jp/book/9784478112274.html より引用

基本的にはコテンラジオで話されていることを文章化したものですので、ラジオを聞けば語られている内容が多いです。ですが、あらためて文字で確認をすると、話し手の話すペースではなく、自分のペースで読み進めることが出来るし、気になるところは何度も読み返すことが出来るので、コテンラジオを聴いてはみたものの、あまり理解できなかったなという人には特にお勧めしたい本です。

深井さんが話した言葉をそのまま文字にしたような、話し言葉で書かれた文章なので、とても読みやすいです。

この本がどういう目的をもって書かれたものなのかは、表紙の裏のところに書かれています。

「歴史思考」とは

【意味】歴史を通して、自分を取り巻く状況を一歩引いて、客観的に見ること

【効用】あなたを苦しめている「当たり前」が当たり前ではないことに気づき、目の前の悩みから解放される

深井龍之介『歴史思考』表紙より引用

深井さんの野望は、コテンラジオ内でも何度か語られていますが、「現代の人たちが抱える問題を、歴史上の出来事を振り返る『人文知』を利用することで、解決していく助けになりたい。そのために、歴史のデータベース化を進めたい。」ということでした。

現代にある様々な問題も、今までの人間の歴史の中で、同じように悩んだり苦しんだりした人がいたんです。あるいは、今の世の中的に大事とされているものは、少し前の時代では価値が低かったという話もあります。だから、昔の人たちとその周辺の歴史を知ることで、気持ちが軽くなって救える人が大勢いるはずだというのが深井さんの持論です。

医学や科学技術といった理科系の知識ももちろん大事だけど、それらに比べて軽視されてきた、歴史という「人文知」を改めて見直そうじゃないか、という壮大なプロジェクトの1つがコテンラジオであり、今回ご紹介する本です。

改めてこの本の狙いについて、本の中ではこのように書かれています。

僕が配信しているポッドキャスト「歴史を面白く学ぶコテンラジオ(COTEN RADIO)」にはたくさんの感想が寄せられます。

興味深いのは、その中に「悩みから解放された」「気持ちが楽になった」といった感想がたくさんあることです。

(中略)

そもそも、悩みとは何でしょうか。

(中略)

それは、僕たちが生きる社会には無数の「当たり前」があり、そこから外れる人が悩んでいるのです。

(中略)

つまり、悩みの原因は僕たちの社会にある常識や価値観なんです。それが原因で悩んでいる人たちが、どうやらたくさんいるらしいんですね。

ところが歴史を学ぶと、僕たちを取り巻いている常識や価値観が、決して当たり前ではないことに気づけます。

(中略)

このように、僕らの「当たり前」が当たり前ではないと分かると、みなさんを苦しめる悩みの前提が崩れます。したがって、悩みから解放されて楽になれる……というわけです。

それこそが本書の狙いです。僕はこの本を、歴史を知ることで、あなたを苦しめている悩みを吹き飛ばすために書きました。

深井龍之介『歴史思考』p.10-12より引用

「あなたは今幸せですか?」と言われたときに「幸せではない」と答える人がいるとします。その人は、自分の才能の無さだったり、自分をとりまく環境だったり、人間関係だったり、色々なところで悩みを抱えているはずです。

そんな人たちの悩みを歴史を知ることで軽くしてくれるような一冊になっていると思います。

「歴史上の偉人だって、こんなダメなところがあるんだよ。」

「今はすごいとされている人だって、当時の時代はすごいとも何とも思われていなかったんだよ。」

「逆に当時はすごいとされていたけれど、今はそれがダメだったと考えられていることもあるんだよ。」

「『帰る家がある』『飲み水がいつでも手に入る』『人殺しはダメ』・・・今は当たり前だと考えられていることも、少し前までは当たり前じゃなかったんだよ。」

こんなことを分かりやすく説明してくれています。

そして、ここからは、本の中でも私が特に好きなエピソードを少しだけご紹介します。

僕はいつも思うのですが、30代や40代くらいで「成功した」「失敗した」と言うのはやめましょう。不毛です。

そもそも何をもって成功というのか難しいですし、それは別にしても、せめて80歳くらいまでは待ちましょう。人生、何がどうなるかなんてわかりません。

(中略)

なぜ偉人は遅咲きが多いのでしょうか?

理由の一つは、人は歳を取るほどしょぼくれていくように思われがちですが、実際は逆にどんどん可能性が広がり、加速していくからではないでしょうか。

だから、まだ若いうちから絶望したり有頂天になるのはやめましょう。

あなたの人生はまだ、ちまちまと伏線を張っている段階にすぎません。クライマックスはまだまだ、ずっと先なんです。

深井龍之介『歴史思考』p.102, 103より引用

受験勉強で失敗した、友達に裏切られた、恋人にひどい振られ方をした、仕事で大失敗をした、ひどいいじめを受けて苦しんだ、悪いことをしてめちゃくちゃ怒られた・・・今を生きている皆さんは、その時その時で絶望をすることだってあると思います。

ただ、それはただの「伏線」なんだと。まだまだこれから先、何が起こるか分からないから、くよくよしないでほしいと深井さんは書いています。

「人の気も知らないで!本当に本当につらいんだよ!」と思うかもしれませんが、そんな人はぜひカーネルサンダースの人生を学んでください!

6歳で父を失い、そこから12歳までは弟や妹の世話と家事手伝いに明け暮れ、12歳で母が再婚した新しい父親とは、そりが合わずに家出をして、そこから色々な職業を転々とし、戦争や社会情勢といったものもかさなって、事業に失敗をして全財産を失ってきました。65歳で全財産を失った(3度目)ときにはさすがにくじけていたそうですが、それでもあきらめずに努力をして、「ケンタッキーフライドチキン」という世界的に有名な企業を作ったんです! そんなカーネルサンダースというおじさんがいるんだと聞いた後だったら、みなさんの絶望も少しは軽くなるかもしれません。

そして、「それはサンダースがすごいだけであって、自分なんかが、すごい人間になれるわけないじゃん。」と考える人に対しては、深井さんは「奇跡の人」ヘレン・ケラーと、その家庭教師のサリヴァン先生を紹介しながら話してくれています。

ヘレン・ケラーは、1歳のころから目が見えない、耳が聞こえない、言葉を話せないという重い障がいを背負っていましたが、家庭教師のサリヴァン先生と出会い、学ぶことの楽しさを知って、必死に努力をしてハーバード大学に合格し、その後も世界中を飛び回って、障がい者の地位向上を訴えていった素晴らしい人です。

ですが、ヘレンがサリヴァン先生と出会っていなれば、学ぶ楽しさを知らずに静かに暗い部屋の中で誰かに介護されながら一生を終えていたかもしれません。そして、サリヴァン先生がいただけでは意味がありません。

障がい者教育に興味を持ち、サリヴァン先生をヘレンのご両親に紹介した大学の先生。

その大学の先生に、彼が障がい者教育に興味を持つきっかけを与えた人。

サリヴァン先生に手話を教えた人。

重い障がいのある我が子に対しても、諦めずに教育を施したヘレンの両親。

そしてヘレンに教育を受けさせるきっかけとなった、ヘレンケラーよりも先に障がいを乗り越えて活躍した人の存在。

・・・誰一人欠けていても奇跡は起きませんでした。

しかし、そういう人々の「存在」が複雑な連鎖反応を生み、ヘレン・ケラーという奇跡につながったんです。

僕がこの章の冒頭で、「存在すること」が何よりも大事だと言ったのはそういう意味です。

生きることに意味があるのであって、その人生がどういう意味を持つかなんて、分かりっこありません。ましてや、その人が偉いか偉くないかなんて、判断のしようがあありません。歴史は複雑なのです。

あなただって「奇跡の人」の一人かもしれません。あなたが何気なくサポートしたり、手助けした人が、巡り巡って奇跡を起こしているかもしれないわけですから。

そうだとするなら、自分の価値を信じて生きたほうが、毎日が楽しくなるのではないでしょうか。

深井龍之介『歴史思考』p.134より引用

ステキですよね。

あなた自身が奇跡を起こすかもしれないし、起こさないかもしれない。起こさなかったとしても、あなたが関わった人のうちの誰かが奇跡を起こすかもしれない。そのときに、あなたが存在していたかどうかが重要になる。

つまり、自分がすごい人なのかすごくない人なのかなんてどうでもいい、あなたは存在しているだけでいいんだよ、という考え方です。あなたが受験に失敗した代わりに合格出来た誰かが、あなたがいじめられたおかげで被害にあわなかった誰かが、ものすごいことをやり遂げるかもしれない。逆に、そのつらい経験が未来のあなたのことをより強くして、とんでもない人にしてくれるかもしれないし、ものすごい人と引き合わせてくれるかもしれない・・・みたいに、今がものすごく大変な状況だったとしても、そこから一歩引いて、こんな風に考えてみたら、少しだけでも前向きな気持ちになれますよね。

まとめ

ということで、大好きな番組とその関連書籍のご紹介でした。写真にして載せた2冊のうちのもう1冊の方はまだ全然読めていないのですが、Spotifyで本の元ネタになった番組はブックマークしてあります。

このコテンラジオを聞いたことで、そしてこの本を読んだことで、生徒のみなさんに授業中に伝えたいことがたくさん湧いてきます。ただし、知っていること全部を話そうとしていたら時間が全然足りないので、泣く泣くどこかは割り切って、単純化して教えなければならない部分もあります。そこが少し悩ましいところです・・・。だから、塾で自習をしている生徒さんや質問をしてくれた生徒さんに思わず語ってしまうこともあります。

「歴史は丸暗記・・・ゲロゲロ・・・」というつらくてしんどい作業ではなくて、ここで紹介したような色々な意味を理解して、楽しみながら勉強を進めてくれることを願っています。

通ってくれている皆さんには、勉強が出来るようになって自信をつけてもらうことはもちろん、志望校・人生の選択の幅を広げる、勉強をして世の中のことを知っていく楽しさに気づいてもらう、今の世の中のことに興味を持って積極的に関わってもらう、そして最終的には楽しい人生を送ってもらう・・・たかが塾に出来ることは限られているとは思いつつも、理想としてはそうなってほしい、なんてことをいつも考えています。

うちの塾が、そんなワクワク出来る楽しい空間であってほしいと思って、私自身も出来る限りの努力をしているつもりです。勉強する、何かを知るって何歳になっても楽しいですね! 一緒に成長していきましょう!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です